記事監修
獣医師 西村 美知子 ブルーミントン動物病院院長
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)卒業後、東京都武蔵野市吉祥寺で開業、2009年に現在の 東京の西荻窪に移転。 自然療法中心の病院です。検査から治療まで、精神的にも身体的にもストレスをできるだけかけずに動物さん個々が本来持つ「治癒力」が動き出すよう、様々な 自然療法をご提供しています。
目次
愛犬・愛猫が「癌」になってしまったら、どんな治療を考えますか?NO.2
犬や猫の寿命も延びて、病気が増えている!
最近は犬や猫が長生きするようになりました。それに伴い、癌や様々な病気にかかって、病院に駆け込む飼い主さんが増えてきていますよね。
コンビニエンスストアや歯科医院のように動物病院もあちらこちらに見かけるようになりました。
やはり、寿命が延びて癌や様々な病気になる犬や猫が多くなってきているのではないでしょうか?動物病院にかかる犬や猫が増えてくるとともに、今までの西洋医学の治療だけでは治癒が難しい症例も増えてきているようです。
また、原因不明な痛みや痒みなども出てきており、西洋医学だけで対処するのが難しいことも生じています。
このような中、飼い主さんの「愛犬や愛猫を何とかしてあげたい!」という切実な思いに応えようと西洋医学だけではなく『代替療法』を併用して治療を行っている獣医師さんも徐々に増えてきているんです。
これらの獣医師さんたちは、代替療法にはこれまでの西洋医療にはない成果も期待されています。
人間の癌療法も、西洋医学の治療だけでは、残念ながら限界があって、毎年多くの癌患者が救えないという事実がありますよね。この状況は、犬や猫でも同じなんですね。
この限界に何とか挑めないか!その一つに代替療法といわれる療法があります。
ご存知でしたか?
今、獣医療の現場では、西洋医学とともに『代替療法』という西洋医学とは違った手法が使われ始めていることを。
今は、インターネットでいろいろな情報が探せます。しかし、まだまだ知らないことは多いですよね。
愛犬・愛猫と少しでも長い時間を幸せに過ごしていだくために是非、知っておいていただきたいこと。そんなお伝えしたいことが、たくさんあります。
そこで、ここでは、『代替療法』にクローズアップして犬・猫の癌治療の最前線を見ていきましょう!
生活の質を向上させる治療法
代替療法については、「一般的に従来の通常医療と見なされていない、さまざまな医学・ヘルスケアシステム、施術、生成物質など」と定義しています。
具体的には、以下のような分類をしています。
1.天然物(Natural Products)
ハーブ(ボタニカル)、ビタミン・ミネラル、プロバイオティクスなど
2.心身療法(Mind and Body Practices)
ヨガ、カイロプラクティック、整骨療法、瞑想、マッサージ療法、鍼灸、リラクゼーション、太極拳、気功、ヒーリングタッチ、催眠療法、運動療法など
3.そのほかの補完療法(Other Complementary Health Approaches)
心霊治療家、アーユルヴェーダ医学、伝統的中国医学、ホメオパシー、自然療法など
国立補完統合衛生センター[米国]、2017/3/16現在
ちなみに、厚生労働省の『「統合医療」のあり方に関する検討会』においては、
西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて、「QOL(Quality of Life:生活の質)を向上させる」医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」
と位置付けされています。
なんか、小難しく聞こえますが、要は、「西洋医学と代替療法などを組み合わせて、より患者の生活の質を向上させる治療法」とうことですよね。
それには以下の様な組み合わせがあります。
患者さんの生活の質を向上させるためには、近代の西洋医学だけではなく、いろいろな療法を組み合わせるということですが、以下のような組み合わせがあります。
近代西洋医学と組み合わせる療法
厚生労働省のホームページには、以下の趣旨の記述があります。
●相補(補完)・代替療法は近代西洋医学と組み合わせることが重要
●(西洋医学の)治療で完全に治る病気も、治療の時期を逸すれば治らなくなる
●相補(補完)・代替療法のメリットとデメリットを十分に理解して、利用するかしないかを冷静に判断する
以前は、相補(補完)・代替療法というのもを厚生労働省は否定していたように思います。
しかし、最近では少しずつ代替療法が厚生労働省の中でも見直されつつあるんだなあと感じました。
とはいえ、まだまだ厳しい表現だとは思いますが・・・
それでは、ここからは『代替療法』について見ていきたいと思います。
参考までに
【犬猫の癌治療を助ける補完代替療法とPOC療法とは】
代替療法とは?
代替療法は、本来動物が持っている治癒力を最大限引き出して根本的な治療を行っていくことを目的としています。
代替療法は『ホリスティック医療』や『自然医療』などとも呼ばれることもあります。
代替療法と言っても、実際には様々な治療方法があるのですが、一般的には、三大療法(外科療法、化学療法、放射線療法)よりも体への負担が少ないものが多いです。
そのため、治療法副作用に悩ままされることが少ないのですが、その分、治療効果も不明瞭なものが多いです。
時に代替療法への過度な期待によって、逆に本来必要な治療が行えなくなってしまうなどの問題もあるようです。
しかし、西洋医学の三大療法と併用することで、三大療法の副作用を軽減させる狙いで行うものもあります。いずれにしても、代替療法は基本的には長期間の治療が必要となることが多いようです。
もう少し詳しく代替医療についてみてみましょう。
西洋医学と対極?
癌治療の最前線では、癌治療の限界がいろいろ出てくるなか、癌を克服するという考え方だけでなく、癌とうまく付き合っていくという考え方も一般的になりつつあります。
その考え方でみると、代替療法は、西洋医学の三大療法と呼ばれる手術や抗癌剤や放射線を使った療法と同じくらい有意義な治療方法だと言えます。
欧米では代替療法は、三大療法と同じレベルの医療として扱われています。
そして近年は、代替療法も徐々に変化していっています。
日本の動物病院で代替療法として行われている西洋医学以外の治療法は、
『ホモトキシコロジー』、『ホメオパシー』、『鍼灸』、『オゾン療法』『温熱療法』『バッチフラワーレメディ』、『漢方』、『食事療法』『サプリメント』などが挙げられます。
(『西洋医学と組み合わせる療法』の項目で掲載した一覧表をご参照ください)
西洋医学とは対極にあるようなイメージですが、最近ではこれらを統合して病気治療にあたる代替療法を進めている動物病院なども出てきました。
これらの代替療法を用いて癌治療で良い結果を出したり、ほかの疾病の改善、治癒事例がみられる動物病院が出てきていることからも、一概に代替療法の全てを否定することはできないでしょう。
色々と存在する代替療法の中で、一頭一頭に合わせた治療方法を選択していくのが重要なのだと思います。
癌の治療については、代替療法は癌組織を除去するという手法ではなく、進行を抑えて、癌組織とうまく付き合っていくという治療が主流になります。
その中で、実際に癌の縮小や消失した症例が出ることもあるようです。
私も実際、ある代替療法の一つで新たな療法を実施している動物病院の獣医さんから癌の縮小が認められたと、聞きました。
POC療法と言って東大の医学部で研究されている物質での療法だそうです。
こちらは、代替療法の中ではレベルが高い研究、そして国際論文を出されているそうです。
参考までに・・・
東大医学部で研究中の代替療法の素材 POCが論文について欧米の医療ジャーナルに掲載されています。
欧米の医療ジャーナルに発表された論文の日本語翻訳版(PDF)
代替療法の問題点
代替療法は、西洋医学の三大療法と比べて、そのメカニズムが不明なもの、あるいは十分な獣医学的なデータが揃っていないものも多いため、科学的な視点からは、「効くかどうかはわからない」という治療法も多々存在するという問題点もあるようです。
さらには同じ代替療法によっても、ある研究では「治療効果あり」とする一方で、「治療効果なし」とする研究報告もあり、結論が混在している治療もあります。
代替療法を疑問視する、あるいは完全に否定する獣医師も少なくありません。
まとめ
人間も含めた動物の身体は、何か問題が起きたとしても、それを自分自身の力で治そうとする力を持っています。
その自己治癒力を手助けし、副作用に悩まされることなく、自己の治癒力で癌に対抗し克服できる治療法があればそれに越したことはありません。
代替療法には「西洋医学で治せないものを治す方法」という位置付けもありますが、動物の身体の機能を損なわない、「動物の体に優しい治療方法」という一面も持っているのではないでしょうか。
ただ、代替療法の問題点に指摘したように、効果のないものを選んだりすることのないように、信頼できる獣医師とよく話し合って検討することが重要になります。
また、癌治療では、癌の種類、部位、進行状況によっては、代替療法ではなく外科や放射線、抗癌剤による治療を進めることもありますし、抗癌剤と代替療法を併用する病院もあります。
癌を抑制することはもちろん大切ですが、「副作用なく、癌と闘える身体にしていく」ことも代替療法の目的です。
癌はもともと身体の一部であったものですが、なぜ正常な細胞が癌化してしまったのか。その原因がどこにあるのかを見つけることも癌の治療には欠かせません。
なぜならば、現在見つかった癌だけを治療しても、この根本原因を改善しないと完治ができない場合もあるからです。癌の治療は、そこが一番難しいところと言えます。
代替療法を選ぶのであれば「生命力が落ちない治療」、「QOL(生活の質)を最後まで維持させる治療」を選択することが大事なのではないでしょうか。
それには自然治癒力を高めていくことが大事です。
免疫力を上げれば、西洋医学も受けられる体力がつきますし、代替療法を行うにしても、相乗効果で自然治癒力が高まっていくでしょう。
いずれにしても、愛犬や愛猫と飼い主さんが、ストレスが少なく、治療ができることが一番いいですね。
それをふまえて考えると、POC療法は、QOLを維持し、自然治癒力を高めながらストレスが少なく生命力が落ちない治療ではないかと思います。
なお、以下は、厚生労働省が注意を喚起している事項になりますので、代替医療をご検討の際には参考にされてください。
・利用する前に主治医などに相談しましょう
相補(補完)・代替療法の利用に際しては、現在の健康状態や受けている治療に影響を及ぼす可能性がありますので、必ず主治医に相談してください。相談の結果、「相補(補完)・代替療法を利用しない」という判断もあってしかるべきです。
・「天然物質、食品・食物=安全」ということではありません
相補(補完)・代替療法は、副作用がなく体に優しいというイメージをお持ちの方も多いかと思います。しかし、天然物質、食品や食物だからといって、それは、安全であることを意味しているわけではありません。「医薬品=副作用を有する危険なもの、健康食品=食べ物だから副作用がなく、どれだけ摂取しても大丈夫」といった誤解を抱き、近代西洋医学を完全に否定し、科学的根拠のない治療法を選択して不幸な結果になることは、避けなければなりません。
*厚生労働省 『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』
「統合医療」情報発信サイトより
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